
AUP契約書とは?
AUP(Agreed Upon Procedures:合意された手続)契約書とは、依頼者と公認会計士が「どの範囲で、どの手続を実施するのか」を事前に合意し、文書として取り交わすものです。日本公認会計士協会の専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」では、この文書を「業務契約書」と呼び、記載すべき事項が具体的に定められています。
監査契約書と異なり、AUP契約書には「保証意見を表明する」という内容は含まれません。あくまで「依頼者と合意した手続を実施し、その事実に即した結果を報告する」ことに重点が置かれます。実務指針4400では、合意された手続業務において業務実施者が意見又は保証の結論を表明することを目的として証拠を入手することはいかなる場合でもないと明記されています。
例えば「売上取引の一部に不正がないか確認したい」「補助金申請の対象となる費用が正しく処理されているか確認したい」といった依頼に応じて、その範囲を契約書で明確に規定します。これにより依頼者と会計士の間で期待のズレが生じにくくなり、後のトラブル防止にもつながります。
AUP契約書の根拠となる基準
日本国内でAUP業務を実施する場合、公認会計士は日本公認会計士協会の専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」(2016年4月27日制定、2023年3月16日最終改正)に準拠します。これは国際関連サービス基準(ISRS)4400に対応した国内基準です。
この実務指針では、業務契約書に記載しなければならない事項が第26項に、実施結果報告書に記載しなければならない事項が第33項に、それぞれ列挙されています。契約書を作成する際は、これらの要求事項を満たしているかを確認する必要があります。
なお、実務指針4400には「実施結果報告書の文例」(付録1)と「確認書の記載例」(付録2)は収録されていますが、契約書そのもののひな形は収録されていません。したがって契約書は、第26項が求める記載事項を漏れなく満たす形で、個々の業務に応じて作成する必要があります。
AUP契約書が必要な理由
AUP契約書を交わすことには大きな意義があります。
- 手続の種類・時期・範囲を明確にできるため、会計士と依頼者の認識が一致する。
- 実施内容を契約上で限定することで、会計士の責任範囲を適切に区切れる。
- 依頼者は「必要な部分だけ」を効率的に調査でき、無駄なコストを避けられる。
- 報告書の利用者に対して、契約上の範囲と、保証が提供されないことを説明できる。
特にAUPは、監査やレビューのような保証業務には該当しないため、契約書にその点を明記しておくことが不可欠です。実務指針4400は、依頼者や報告書の利用者が「保証が提供されている」と誤解する可能性がある場合、そもそも業務契約を締結してはならないとしています。
AUP契約書に含めるべき主要項目
実務指針4400第26項は、業務契約書に記載しなければならない事項として以下を挙げています。実務上、これに契約期間・報酬・守秘義務などの一般条項を加えて契約書を構成します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 合意された手続業務対象 | 手続の対象となる情報・文書・測定値・法令遵守状況などを特定する。 |
| 業務の目的と報告書の利用者 | なぜこのAUPを依頼するのか(例:許可申請のため、投資判断のため)と、報告書を誰が利用するのか。 |
| 業務対象に責任を負う者 | 依頼者が特定した、業務対象に責任を負う者。当該者が責任を負うことを前提に業務が実施される旨。 |
| 遵守する職業倫理に関する規定 | 公認会計士法、倫理規則など、業務実施者が遵守する規定。 |
| 独立性に関する要求事項 | 独立性の遵守が要求されるかどうか、要求される場合はその内容。 |
| 業務の特質 | 手続実施と結果報告が含まれること、結果は事実に即したものであること、保証業務ではなく結論も保証も提供しないこと、手続を追加すれば新たな事項が報告される可能性があること、各当事者の責任。 |
| 手続の適切性の承知 | 合意された手続が業務の目的に照らして適切であることを依頼者が承知している旨。 |
| 実施結果報告書の宛先 | 報告書を誰宛てに発行するか。 |
| 実施する手続の種類・時期・範囲 | 明確で、誤解を招かず、様々な解釈が生じない記載。 |
| 報告書の想定される様式及び内容 | 発行される報告書のイメージ。 |
| 準拠する実務指針 | 専門業務実務指針4400等に準拠して実施する旨。 |
| 契約期間・報酬 | 実施・報告の期限、業務の対価と支払い条件。 |
さらに、依頼者以外に報告書の利用者が存在し、配布・利用の制限を付す場合には、当該利用者の氏名又は名称、その者が手続に合意している旨、および手続が目的に適合していることを承知している旨を契約書に記載しなければならないとされています。
AUP契約書モデル(サンプル条項)
以下は、実務指針4400第26項の要求事項を踏まえたAUP契約書の典型的な条項例です。個別の業務内容に応じた調整が必要であり、実際の契約書では公認会計士・弁護士の確認を経ることをおすすめします。
- 第1条(目的):本契約は、依頼者と会計士が合意した手続を会計士が実施し、その手続実施結果を報告することを目的とする。本業務は監査又はレビューその他の保証業務ではなく、会計士は意見又は保証の結論を表明しない。
- 第2条(業務対象):本業務の対象は、〇〇株式会社の〇年〇月〇日現在における〇〇(対象となる情報・書類等)とする。
- 第3条(業務対象に責任を負う者):業務対象に責任を負う者は〇〇とし、本業務は当該者が業務対象に責任を負うことを前提として実施される。
- 第4条(実施する手続の種類、時期及び範囲):会計士は、別紙に定める手続を〇年〇月〇日から〇年〇月〇日までの間に実施する。手続の内容は、明確かつ様々な解釈が生じない方法で別紙に記載する。
- 第5条(手続の適切性):依頼者は、本契約に定める手続が本業務の目的に照らして適切であることを承知している。会計士は、当該手続の十分性又は適切性について何らの表明も行わない。
- 第6条(手続の変更):業務の途中で手続を変更する必要が生じた場合、会計士と依頼者は、変更後の手続を反映した契約条件について改めて書面により合意する。
- 第7条(実施結果報告書):会計士は、実施した手続と、その事実に即した手続実施結果を記載した実施結果報告書を、〇〇宛てに発行する。報告書は専門業務実務指針4400に準拠した様式による。
- 第8条(本業務の特質):手続実施結果は、合意された手続の実施による事実に即した結果であり、会計士による意見、結論又は改善提案を含まない。会計士が手続を追加し又は範囲を拡大した場合には、新たな事項が報告される可能性がある。
- 第9条(職業倫理及び独立性):会計士は、公認会計士法および日本公認会計士協会の倫理規則を含む我が国における職業倫理に関する規定を遵守する。本業務における独立性の取扱いは次のとおりとする。〔独立性が要求される場合:会計士は〇〇に関する独立性の要求事項を遵守する/要求されない場合:本業務において会計士が遵守を要求される独立性に関する要求事項は存在しない。ただし会計士は客観性の原則に基づき利益相反を回避する。〕
- 第10条(報告書の利用者及び配布・利用の制限):実施結果報告書は、〇〇(利用者の氏名又は名称)のみの利用に供され、それ以外の目的に使用し、又は第三者に開示してはならない。当該利用者は、本契約に定める手続に合意し、かつ当該手続が業務の目的に適合していることを承知している。
- 第11条(依頼者の責任):依頼者は、手続の実施に必要な記録、書類その他の情報を会計士に提供する責任を負う。また、依頼者は業務対象および合意された手続の適切性について責任を負う。
- 第12条(会計士の責任):会計士の責任は、本契約に定める手続を実施し、その結果を報告することに限定される。会計士は、合意された手続の対象外の事項について責任を負わない。
- 第13条(準拠する実務指針):本業務は、日本公認会計士協会の専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」に準拠して実施される。
- 第14条(契約期間):本契約は〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで有効とする。
- 第15条(報酬):依頼者は、会計士に対し本業務に係る報酬〇〇円(消費税別)を、〇年〇月〇日までに支払う。
- 第16条(守秘義務):会計士は、本業務を通じて知り得た依頼者の情報を、法令に基づく場合を除き第三者に開示しない。
AUP契約書作成時の注意点
- 保証を伴わないことを明確に記載する:依頼者や第三者が「監査報告書と同じ」と誤解しないようにする必要があります。AUPと監査の違いを踏まえ、契約書の段階から位置づけを明示しておくことが重要です。実務指針4400では、報告書の利用者が保証の提供と誤解する可能性がある場合、契約を締結してはならないとされています。
- 手続の種類・時期・範囲を具体的に記載する:「売上の確認」ではなく「2024年4月~6月の売上取引のうち主要取引先3社分について、売上計上額と入金記録を突合する」といったように、誰が読んでも同じ解釈になる粒度まで具体化します。手続の詳細を契約書に定められない場合、そもそも業務を引き受けることができません。
- 独立性の取扱いを明記する:AUPでは、法令又は契約条件に基づく場合を除き、業務対象に責任を負う者に対する独立性は要求されません。これは監査との重要な違いです。ただし客観性の原則に基づく利益相反の回避は常に求められます。独立性を要求するのか否かを契約書上で明確にしておく必要があります。
- 報告書の利用者と配布制限を明記する:依頼者だけが利用するのか、金融機関や行政機関など外部も利用するのかを明らかにします。依頼者以外の利用者がいる場合は、その氏名又は名称と、当該利用者が手続に合意している旨を契約書に記載します。
- 手続を途中で変更する場合は再合意する:業務の途中で手続が変更された場合、変更を反映した契約条件について依頼者と改めて合意しなければなりません。
- 契約期間と報酬条件を明確にする:短期間で完了できるのがAUPの特徴なので、スケジュール感を契約に落とし込むことが重要です。
AUP契約を引き受けられないケース
実務指針4400は、次のような状況に該当する場合、業務契約を締結してはならないとしています。契約書作成の前提として確認が必要です。
- 手続実施結果の提供だけでは、保証を期待する利用者のニーズを満たさないと見込まれる場合。
- 業務対象に関する保証を提供していると報告書の利用者が解釈する可能性を示す業務である場合。
- 依頼者が手続の実施を依頼した目的が合理的でない場合。
- 会計士が、実施すべき手続の十分性・適切性を自ら決定したり、手続実施結果から結論を形成したりすることを求められる業務である場合(それは保証業務であり、AUPではありません)。
- 実施する手続の種類・時期・範囲の詳細を業務契約書において定められない場合。
- 会計士が当該業務を実施するための適性及び能力を有していない場合。
AUP契約書が活用される具体的なシーン
AUP契約書は実務上、以下のようなシーンで活用されます。
- 労働者派遣事業の許可・更新申請において、基準資産額などの資産要件を確認する場合。
- 有料職業紹介事業の許可更新において、月次決算に基づく資産要件を確認する場合。
- M&Aのデューデリジェンスにおいて、対象会社の売上や在庫を限定的に確認する場合。
- 金融機関が融資判断を行う際に、担保資産や特定の取引を確認する場合。
- 補助金や助成金の申請において、支出の一部を検証する場合。
- 子会社や関連会社の特定勘定科目を本社が確認する場合。
特に許認可の更新実務では、決算書上は資産要件を満たしていなくても、AUPによる報告書を用いて更新につなげられる場合があります。詳しくは派遣事業更新で資産要件が不足しているときの対応方法をご覧ください。
なお、AUPの対象は財務情報に限られません。実務指針4400では、規制当局に報告される二酸化炭素排出量や、内部統制などの行為・システムも業務対象になり得るとされています。
AUP契約書は依頼内容を明確にするための必須ツール
AUP契約書は、監査契約書とは異なり「保証を伴わず、合意された範囲の手続のみを実施する」ための文書です。契約書を交わすことで依頼者と会計士の間で期待値のズレを防ぎ、実務をスムーズに進められます。
作成にあたっては、専門業務実務指針4400第26項が求める記載事項――業務対象、目的と利用者、業務対象に責任を負う者、職業倫理と独立性の取扱い、手続の種類・時期・範囲、報告書の様式、そして保証を提供しない旨――を漏れなく盛り込むことが重要です。
契約書の作成や、実際にAUPを実施すべきかどうかの判断でお困りの場合は、無料相談にてお気軽にご相談ください。
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- 労働者派遣事業の合意された手続実施結果報告書の作成方法
- 派遣業のAUP(合意された手続)とは?監査証明との違い・費用・期間を解説
参考
- 日本公認会計士協会「専門業務実務指針4400 合意された手続業務に関する実務指針」(2016年4月27日、最終改正2023年3月16日)
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