派遣業許可をスムーズに取得!基準資産額の計算ポイント
「標準資産額」とは?(本ページの位置づけ)
本ページでいう「標準資産額」は、職業紹介事業の有効期間更新や許可申請を検討する事業者が、直近の決算書(貸借対照表)から財務の安全余力を素早く把握するための実務指標です。
公式の許可・更新の審査では、所管官庁が定める要件(例:自己資本の水準、欠格事由の有無 等)が重視されます。本ページの「標準資産額」は、その前段で自社の現状把握と早期の打ち手検討を行うための簡易な定量物差しとしてご活用ください。
なお、許可要件や更新手続の考え方は、以下の関連ページも合わせてご覧ください。
・職業紹介事業の更新申請:注意点と準備
・更新申請書(様式・書き方のポイント)
・資産要件の基本と改善策
・AUPと監査の違い(第三者確認の使い分け)
まず押さえるべき用語と前提
自己資本:貸借対照表の純資産(資本金、資本剰余金、利益剰余金など)。一般に自己資本が小さい/マイナスだと、更新審査で不利になりやすい傾向があります。
流動資産・流動負債:1年以内に現金化される資産(現金・預金・売掛金 等)と、1年以内に支払期日が来る負債(買掛金・短期借入金 等)。短期の支払余力判断に重要です。
注意:本ページは実務上の自己診断を支援する解説です。審査の最終判断は所管官庁によります。最新の法令・通知に基づく手続は、公式資料や専門家へご確認ください。
本ページで用いる「標準資産額」の考え方(実務指標の定義)
実務での意思決定スピードを重視し、以下のようにシンプルに定義します。
標準資産額(実務指標)= 自己資本 +(流動資産 - 流動負債)
狙いは、①長期の安全網=自己資本に②短期の支払余力=運転資本(流動資産-流動負債)を重ねて、今どれだけの“安全余力”があるかを一目で把握することです。
・自己資本が潤沢でも、短期の支払が逼迫していれば、実務上の余力は小さく見ます。
・逆に、運転資本が厚くても、自己資本が極端に薄い(あるいは債務超過)なら、更新や許可の観点では警戒が必要です。
この指標は公式審査の計算式ではありませんが、更新準備の優先順位付けや早期の打ち手検討に役立ちます。
5ステップで計算:貸借対照表から標準資産額を出す
Step1:直近決算の貸借対照表を用意(試算表でも構いませんが、決算確定数値が望ましい)。
Step2:流動資産合計と流動負債合計を確認。
Step3:運転資本=(流動資産-流動負債)を計算。
Step4:自己資本(純資産合計)を確認。
Step5:標準資産額=自己資本+運転資本 を算出。
算出後は、以下の観点で解釈します。
・標準資産額が大きい:短期・長期の両面で安全余力がある可能性が高い。
・標準資産額が小さい/マイナス:要注意。流動負債の圧縮、増資、資金繰り計画の見直し等を早急に検討。
あわせて、更新全体の流れや必要書類を再確認してください:更新申請の流れと注意点/更新申請書の書き方
計算サンプル(数値例)
ある会社の直近期の貸借対照表が以下のとおりだとします。
項目 | 金額 |
---|---|
流動資産合計 | 1,200万円 |
流動負債合計 | 800万円 |
自己資本(純資産合計) | 700万円 |
このとき、
運転資本=1,200-800=400万円
標準資産額=自己資本700+運転資本400=1,100万円
標準資産額がプラスで、かつ自己資本も十分にあるため、短期・長期ともに一定の余力があると評価できます。
一方、例えば流動負債が1,300万円に増えると、運転資本は1,200-1,300=-100万円となり、標準資産額は700+(-100)=600万円に低下。短期の支払圧力が強まるため、更新準備として資金繰りの見直しが必要です。
判断の目安と“黄色信号”のシグナル
以下は実務上の目安です(最終判断は所管官庁の審査)。
・標準資産額がプラスで、自己資本も一定水準以上:通常は前向きに準備を進められます。
・標準資産額がごく小さい(ゼロ近辺)/マイナス:黄色信号。短期資金繰りと資本の薄さが同時に疑われます。
・自己資本が小さい/マイナス(債務超過):赤信号。早期に増資・借入・費用見直し等を検討。
改善策の検討は、こちらのページも参考にしてください:資産要件の基本と改善アプローチ
よくある誤差・見落とし(数字がブレる原因)
① 未払計上の漏れ:決算時に未払費用や賞与引当金を適切に計上していないと、流動負債が過小に見える。
② 売掛金の回収遅延:実態的に焦げ付き懸念がある売掛金は、回収可能性を織り込んで評価したい。
③ 在庫の評価:陳腐化・滞留在庫の評価が過大だと、流動資産を過大に見積もる。
④ 短期借入金の過小計上:リボルビングや当座貸越の実質残高を見誤ると、短期支払圧力を過小評価。
⑤ 役員貸付金:回収見込みが乏しい役員貸付金は、実務上は流動性を低く見積もる方が保守的です。
数字を固めたい場合は、AUP(合意された手続)の活用で、特定項目の第三者確認を取得すると、更新申請の説得力が増します。
更新・許可と「標準資産額」の関係(どう使う?)
繰り返しになりますが、標準資産額は公式審査の計算式ではありません。
実務では、①早期の自己診断 → ②打ち手の優先順位付け → ③裏づけ資料の整備の順で使います。
- 優先順位:短期の資金繰り(流動負債の圧縮や借換え)と、自己資本の厚み(増資・利益確保)を同時並行で検討。
- 裏づけ資料:更新申請書の記載と整合するよう、決算書・体制図・誓約書などの添付書類を準備。
- 第三者確認:限定的な検証で十分な場合は、AUP契約書モデルを用いて、必要箇所のみ合意手続を実施。
改善アクション:短期と中期でやること
短期(0~3か月):
・支払サイトの見直し/仕入先とのリスケ交渉
・短期借入金の借換え・返済計画の再設計
・滞留在庫・不良債権の棚卸しと回収計画の策定
・申請締切から逆算したスケジュール化(詳細は更新申請の流れ参照)
中期(3~12か月):
・増資の検討(オーナー増資/第三者割当)
・高コスト取引の見直し(家賃・通信・サブスク)
・利益率向上のための価格・案件ポートフォリオ再設計
・AUPで重点領域のエビデンス整備(AUPと監査の違い)
これらを進めながら、資産要件の基本と改善策に照らして、更新時の“詰め”を行います。
ケーススタディ(2社比較)
ケースA:自己資本1,000万円/流動資産2,000万円/流動負債1,200万円 → 運転資本800万円 → 標準資産額1,800万円。
短期・長期ともに余力あり。更新へ向け、体制図や誓約書などの添付漏れ防止と、申請書記載のミス防止に注力。
ケースB:自己資本200万円/流動資産1,000万円/流動負債1,050万円 → 運転資本-50万円 → 標準資産額150万円。
短期の資金繰りに懸念。仕入先・金融機関との条件見直し、在庫圧縮、短期借入の借換えで運転資本の改善を優先。並行して増資を検討。
必要に応じて、AUP契約で売掛金や在庫の限定的検証を行い、更新申請時の根拠を強化。
チェックリスト(貼って使える最終確認)
- ① 貸借対照表の流動資産・流動負債・自己資本を最新化した。
- ② 標準資産額=自己資本+(流動資産-流動負債)を算出した。
- ③ 値が小さい/マイナスの場合、短期資金繰りと資本政策の打ち手を列挙した。
- ④ 更新スケジュールを逆算(申請受付は満了3か月前から)。更新の流れを確認済み。
- ⑤ 申請書のドラフトを作成し、記載ミスの多い箇所を重点チェック。
- ⑥ 必要に応じ、AUPの活用で限定的な第三者確認を準備。
よくある質問(FAQ)
- 標準資産額は公式の審査計算式ですか?
- いいえ。本ページの標準資産額は実務での自己診断指標です。最新の審査は所管官庁の要領をご確認ください。
- 赤字決算でも更新できる余地はありますか?
- 自己資本が所定の基準を上回っていれば、赤字でも更新可能なケースがあります。詳しくは資産要件の基本をご参照ください。
- AUPはどのように役立ちますか?
- 売掛金・在庫など限定領域の事実確認を第三者が実施・報告できます。更新申請の補足資料として有用です。違いはAUPと監査の違いをご覧ください。
まとめ:数値を見える化し、早めに打ち手へ
標準資産額(実務指標)は、自己資本と運転資本を同時に捉え、更新準備に必要な安全余力を素早く把握するための簡易ツールです。値が小さければ、短期資金繰り・借換え・在庫圧縮・増資などの打ち手を検討しましょう。
手続面は、更新申請の流れと申請書の書き方を確認し、財務面は資産要件の基本とAUPの限定検証を組み合わせると、準備の確度が高まります。
迷われたら、まずは貸借対照表の3数値(流動資産・流動負債・自己資本)を更新し、本ページの計算式で現在地を可視化してください。そこからのアクションが、更新成功への最短ルートです。