
有料職業紹介事業の許可は、取得して終わりではありません。初回は3年、その後は5年ごとに更新が必要で、期限を過ぎると事業を継続できなくなります。
特に更新前に多くの事業者が悩むのが「財産的基礎(基準資産額)を満たしているかどうか」の確認です。最近の決算書が赤字傾向にある場合や、借入が増えている場合は、早めの対策が必要です。
この記事では、有料職業紹介事業の許可更新に必要な手続き・書類・財産的基礎要件を、公認会計士の視点から具体的に解説します。
有料職業紹介事業の許可更新の基本(更新時期・有効期間・申請タイミング)
許可更新の準備は、有効期限の5〜6ヶ月前から始めるのが鉄則です。
初回は3年・2回目以降は5年
有料職業紹介事業の許可有効期間は、以下のとおりです。
| 区分 | 有効期間 |
|---|---|
| 新規許可 | 許可日から3年間 |
| 2回目以降の更新 | 更新日から5年間 |
派遣業と同様に、初回更新は3年で到来します。開業から3年が経過したタイミングで最初の更新手続きが必要になるため、見落としやすいポイントです。
申請は有効期限の3ヶ月前までに
更新申請の受付期限は、許可の有効期限が切れる3ヶ月前です。ただし審査には2〜3ヶ月かかるため、実質的には6ヶ月前から準備を開始するのが安全です。
- 6ヶ月前: 財産的基礎の確認・書類の洗い出しを開始
- 4ヶ月前: 書類の収集・作成を完了
- 3ヶ月前: 管轄労働局へ申請書類を提出
- 許可証交付: 申請から約2〜3ヶ月後
決算期のタイミングと申請時期が重なる事業者は特に注意が必要です。最新の財務書類を準備するため、決算確定のスケジュールと申請時期を事前に調整しておきましょう。
更新を怠った場合のリスク
更新申請を忘れ、有効期限が切れてしまった場合は許可が失効します。その後も職業紹介業務を続けると無許可営業となり、職業安定法違反として行政処分の対象になります。再度、新規申請からやり直す必要があり、審査期間中は事業を停止しなければなりません。
財産的基礎の確認(更新できるかどうかの最重要チェック)
更新申請で最もつまずきやすいのが財産的基礎の要件です。まず自社の数字を確認してください。
更新時の財産的基礎要件(新規と異なる点に注意)
有料職業紹介事業の財産的基礎要件は、新規申請と更新申請で金額が異なります。
| 要件 | 新規申請 | 更新申請 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 500万円以上(1事業所あたり) | 350万円以上(1事業所あたり) |
| 現金・預金等 | 150万円以上(+60万円×追加事業所数) | 不要 |
更新時の基準資産額は350万円です。新規申請の500万円よりも要件が緩和されているため、新規許可から3年が経過した段階で350万円を下回っていなければ通常は問題ありません。また、現金・預金要件は更新時には求められません。
基準資産額350万円以上とは
基準資産額とは、貸借対照表の数値を用いて次の計算式で算出します。
基準資産額 = 資産の総額 − 負債の総額 − 繰延資産 − 営業権(のれん)
平易に言えば、**「純資産から繰延資産・のれんを除いた金額」**です。
以下のような場合は基準資産額が下がるため注意が必要です。
- 借入金が増加している(負債増加 → 基準資産額が減少)
- 未回収の売掛金が長期間残っている(実質的な貸倒れ → 資産の過大計上)
- 減価償却費を適切に計上していない(修正が入ると資産が減少)
- 含み損のある固定資産がある(減損損失の計上で資産が減少)
決算書上の数字と実態に乖離がある場合、審査で指摘される可能性があります。
要件を満たせない場合の対処法とAUP証明書の活用
直近の決算書で基準資産額350万円を下回る場合でも、直ちに更新を諦める必要はありません。
方法①:試算表+AUP(合意された手続)報告書で対応する
直近の決算日後に財務状況が改善している場合、最新の試算表(期中の財務数値)をもとに、公認会計士が合意された手続(AUP)を実施し、基準資産額が要件を満たしていることを証明する報告書を作成できます。
AUP報告書を申請書類とともに提出することで、最新の決算書が要件を満たしていなくても許可更新が認められるケースがあります。当事務所では、有料職業紹介事業のAUP報告書発行に対応しています。
方法②:役員借入金の資本金への振替(DES)
代表者から会社への貸付金がある場合、これを資本金に振り替えることで、負債が減少し基準資産額が増加します。ただし手続きには時間がかかるため、早めの相談が必要です。
方法③:増資を行う
第三者からの出資または役員個人からの増資により、純資産を増やす方法です。増資は負債に計上されないため、基準資産額の直接的な改善につながります。
必要書類チェックリスト
全事業者共通の書類
有料職業紹介事業の許可更新申請に必要な書類は以下のとおりです。
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| 職業紹介事業計画書 | 今後の運営方針・計画を記載 |
| 最近の事業年度の貸借対照表 | 財産的基礎の確認に使用 |
| 最近の事業年度の損益計算書 | 同上 |
| 最近の事業年度の株主資本等変動計算書 | 同上 |
| 法人税の納税申告書別表1および別表4の写し | 欠損金の確認に使用 |
| 代表者・役員・職業紹介責任者の住民票 | 本籍地記載のもの(前回申請後に住所・本籍地変更がなければ省略可) |
| 職業紹介責任者の講習修了証の写し | 有効期限内のものに限る |
状況別の追加書類
| 状況 | 追加書類 |
|---|---|
| 直近決算書で財産的基礎を満たせない場合 | 試算表+公認会計士によるAUP報告書(または監査証明書) |
| 事業所を複数設置している場合 | 各事業所の状況がわかる書類 |
| 職業紹介責任者が変更になった場合 | 新任者の講習修了証・住民票 |
| 役員に変更があった場合 | 変更後の役員全員の住民票・変更届出書 |
| 合併・会社分割等があった場合 | 別途、新規申請が必要になる場合あり |
更新申請の手続きフロー
労働局への提出から許可証交付まで
- 書類の準備(有効期限の6〜4ヶ月前)
財産的基礎の確認・書類収集・不足書類の手配 - 管轄労働局へ申請書類を提出(有効期限の3ヶ月前まで)
管轄は「本社所在地を管轄する都道府県労働局」です - 審査(提出後2〜3ヶ月)
書類に不備があると追加資料の提出を求められ、審査が延長される場合があります - 許可証の交付
審査を通過すると、新たな許可証が交付されます
審査中に有効期限が到来した場合: 期限内に申請が受理されていれば、審査中も従前の許可の効力が継続します(職業安定法の規定による)。ただし申請受理が遅れると適用されないため、余裕を持って申請することが重要です。
更新手数料
更新許可申請にかかる登録免許税は 18,000円×事業所数 です。事業所が複数ある場合は事業所の数に応じて費用が増えます。社会保険労務士や行政書士に申請代行を依頼する場合は、別途10万円前後の報酬が発生するのが一般的です。
年次事業報告書の提出(毎年4月30日)
許可更新の手続きとは別に、毎年4月30日までに前年度(4月〜翌3月)の事業報告書を管轄労働局に提出する義務があります。紹介件数・収支状況などを記載します。この提出を怠ると、更新審査で不利に働く場合があるため注意してください。
職業紹介責任者の要件
選任基準
職業紹介責任者は以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 成年に達した後、3年以上の職業経験を有する者
- 過去5年以内に職業紹介責任者講習を修了していること
- 欠格事由(禁固以上の刑を受けた者等)に該当しないこと
- 事業所に常勤できること(出張中心の勤務形態では不可)
選任人数の目安: 1事業所につき職業紹介に従事する者50人以下ごとに1人以上
職業紹介責任者講習の受講・更新
職業紹介責任者講習は、厚生労働省が認定した機関が実施しており、修了証の有効期間は5年です。更新申請の際には有効期限内の修了証が必要なため、有効期限を事前に確認してください。
許可更新のタイミングに合わせて受講を計画するのがスムーズです。講習の日程は各実施機関のウェブサイトで確認できます。
更新前に整備が必要な社内体制
帳簿・職業紹介記録の整備
職業紹介事業者は、以下の帳簿類を適切に整備・保管することが義務付けられています。
- 求人票・求職票: 各申込み日から起算して2年間保存
- 紹介記録: 紹介を行った都度作成し、2年間保存
- 手数料等管理簿: 手数料を収受した都度記録
更新申請の際に帳簿の整備状況が確認される場合があります。未整備の状態で申請すると、指導・是正を求められることがあります。
個人情報保護・苦情処理体制
個人情報保護:
求職者・求人企業の個人情報を適切に管理するための内部規程が必要です。情報の取得・利用・第三者提供・廃棄に関するルールを文書化し、担当者への教育を実施していることが求められます。
苦情処理体制:
求職者・求人企業からの苦情を受け付け、適切に処理するための窓口と手続きを整備してください。苦情処理の記録も保管義務があります。
よくある質問(FAQ)
-
更新申請を忘れたまま有効期限が切れてしまった場合は?
-
許可が失効し、職業紹介業務を継続することはできません。引き続き業務を行うと無許可営業として職業安定法違反となり、行政処分の対象になります。まず管轄の労働局に相談し、新規申請の手続きを確認してください。
-
更新時に財産的基礎(基準資産額350万円)を満たせない場合はどうなりますか?
-
直近の決算書で要件を満たせない場合でも、最新の試算表をもとに公認会計士がAUP(合意された手続)報告書を作成することで、更新申請が認められるケースがあります。早めに公認会計士に相談することをお勧めします。
-
新規許可時に求められた「現金・預金150万円以上」は更新時も必要ですか?
-
更新時には不要です。 現金・預金要件は新規許可申請時のみの要件であり、更新申請では基準資産額350万円以上の要件のみが求められます。
-
派遣業と有料職業紹介業を兼営している場合、手続きは別々に必要ですか?
-
はい、両許可は別々に管理されており、更新手続きも個別に行う必要があります。労働者派遣事業の許可更新については別ページで詳しく解説しています。
-
合併や会社分割があった場合、許可はそのまま引き継げますか?
-
原則として引き継げません。合併・会社分割等があった場合、存続会社または新設会社が改めて新規申請を行う必要があります。組織変更が予定されている場合は、事前に管轄労働局に相談してください。
-
職業紹介責任者の講習修了証が更新申請前に期限切れになる場合は?
-
更新申請の時点で有効な修了証が必要です。期限切れになる前に再受講をスケジュールしてください。受講から修了証の発行まで数週間かかる場合があるため、余裕をもって申請してください。
まとめ
有料職業紹介事業の許可更新は、有効期限の5〜6ヶ月前から準備を始めるのが原則です。特に以下の3点は早期確認が必須です。
- 財産的基礎の確認(更新時の基準資産額は350万円以上)
- 職業紹介責任者講習修了証の有効期限確認
- 帳簿・職業紹介記録・個人情報保護体制の整備状況確認
直近の決算書で基準資産額が350万円を下回っている場合でも、試算表をもとにAUP(合意された手続)報告書を活用することで対応できる場合があります。期限に余裕があるうちに、専門家への相談をお勧めします。
公認会計士への無料相談はこちら
当事務所(江口晋平公認会計士事務所)では、有料職業紹介事業の許可更新に必要な財務書類の確認・AUP(合意された手続)報告書の発行に対応しています。
- 更新前に基準資産額が要件を満たすか確認したい
- 決算書の数字に不安がある
- AUP報告書が必要かどうか相談したい
上記のようなご相談をお待ちしています。





