
有料職業紹介事業(人材紹介業)の許可更新で、直近の決算書が財産的基礎要件を満たせない——そのような状況で活用できるのが「AUP(合意された手続)」です。
本記事では、有料職業紹介事業に特有の財産的基礎要件とAUPの関係を、派遣業との違いも踏まえながら公認会計士が解説します。
有料職業紹介事業の財産的基礎要件
AUPが必要かどうかは、まず自社の財産的基礎要件を把握することが出発点です。
新規許可と更新許可で要件が異なる
有料職業紹介事業の許可に必要な財産的基礎要件は、新規許可と更新許可で大きく異なります。
| 要件 | 新規許可 | 更新許可(事後申立て) |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 500万円以上 | 350万円以上 |
| 現金・預金 | 150万円以上 | 要件なし |
基準資産額 = 資産の総額 − 負債の総額 − 繰延資産 − 営業権(のれん)
派遣業との違い
有料職業紹介事業のAUPを考えるうえで、派遣業との主な違いを押さえておきましょう。
| 比較項目 | 有料職業紹介事業 | 労働者派遣事業 |
|---|---|---|
| 基準資産額(更新) | 350万円以上 | 2,000万円以上 × 事業所数 |
| 現金預金(更新) | 要件なし | 1,500万円以上 × 事業所数 |
| 負債比率 | 要件なし | 基準資産額 ≥ 負債の1/7 |
有料職業紹介事業は派遣業に比べると要件の水準が低く、更新時の現金預金要件がないのが特徴です。それでも基準資産額350万円を年度決算書で満たせない場合には、AUPが必要になります。
AUP(合意された手続)とは?
定義
AUPとは、**Agreed Upon Procedures(合意された手続)**の略称で、公認会計士が依頼者と事前に合意した手続のみを実施し、その結果を報告する業務です。
日本公認会計士協会 専門業務実務指針4450「労働者派遣事業等の許可審査に係る中間又は月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針」(2018年12月公表)に基づきます。
指針のタイトルに「労働者派遣事業等」とある通り、有料職業紹介事業にも同じ基準が適用されます。
AUPと監査証明の違い
| 項目 | 監査証明 | AUP(合意された手続) |
|---|---|---|
| 報告内容 | 財務諸表全体の適正性について意見を表明 | 合意した手続とその結果のみ報告 |
| 使える申請 | 新規・更新の両方 | 更新申請のみ |
| 費用 | 高い | 安い |
| 期間 | 長い | 短い(資料が揃えば1週間程度) |
AUPは許可の有効期間の更新申請(事後申立て)でのみ使用できます。新規許可申請には使えません。
有料職業紹介事業でAUPが必要になるケース
【直近の年度決算書で基準資産額350万円を下回っている】
↓
【中間・月次決算書では350万円以上を満たしている】
↓
【AUPが有効】
具体的なパターン:
- 赤字決算により、期末時点で基準資産額が350万円を割り込んだ
- 大きな損失・費用計上(貸倒引当金の追加など)で要件を下回った
- その後、利益の積み上げや増資で要件を回復した
AUP取得の流れと必要書類
依頼から報告書受領までの手順
月次試算表で基準資産額350万円以上を確認する
AUPは「要件を満たしている月次決算書」に対して実施されます。現在も350万円を下回っている場合は、まず利益の積み上げや増資などで財務を改善してください。
独立性のある公認会計士を選定する
顧問税理士・顧問会計士は独立性の要件から担当できません。顧問関係のない公認会計士事務所に依頼してください。
初回相談・資料共有
更新の期限、許可番号、対象月の試算表の状況を伝えます。
AUP範囲の合意
確認する勘定科目・手続の内容を公認会計士と合意します。
資料提供と手続き実施
必要書類を揃えて提出。公認会計士が合意した手続を実施します。
合意された手続実施結果報告書の受領
資料が揃ってから通常5営業日〜1週間程度で報告書が発行されます。
厚生労働大臣(都道府県労働局)へ更新申請
AUP報告書を添付書類として提出します。更新申請全体の手順・必要書類は有料職業紹介事業の許可更新完全ガイドで詳しく解説しています。
準備が必要な主な書類
| 書類 | 用途 |
|---|---|
| 対象の中間・月次決算書 | 基準資産額の確認 |
| 直近の年度決算書・法人税申告書 | 比較基準として使用 |
| 預金通帳または銀行残高証明書 | 預金残高の確認 |
| 総勘定元帳 | 取引の詳細確認 |
| 証憑書類(請求書・領収書など) | 勘定残高の裏付け |
有料職業紹介事業は更新時に現金預金の要件がないため、派遣業と比べると確認書類がやや少なくなる傾向があります。
費用・期間の目安
費用相場
| 業務 | 費用目安 |
|---|---|
| AUP(合意された手続実施結果報告書) | 21万円〜(税別) |
| 監査証明 | 31.5万円〜(税別) |
AUPは監査証明より手続範囲が限定されるため、費用・期間ともに有利です。
期間
資料が揃ってから報告書受領まで5営業日〜1週間程度が目安です。更新申請の期限から逆算して、少なくとも1〜2ヶ月前には公認会計士に相談を開始してください。
よくある質問(FAQ)
-
AUPは有料職業紹介の新規許可申請にも使えますか?
-
使えません。AUPが使えるのは更新申請(事後申立て)のみです。新規許可申請で財産的基礎を証明する場合は、監査証明が必要です。
-
更新時の基準資産額は350万円で合っていますか?新規申請の500万円より低いのですか?
-
はい、正確です。有料職業紹介事業の財産的基礎要件は、新規申請が500万円(現金預金150万円含む)、更新申請が350万円(現金預金要件なし)と、更新時の方が緩和されています。
-
顧問税理士にAUPをお願いできますか?
-
できません。AUP業務には「独立性」が求められ、顧問関係にある会計士・税理士は担当できません。顧問関係のない公認会計士事務所に依頼してください。
-
労働者派遣事業も兼業しています。2つの許可でAUPを別々に依頼する必要がありますか?
-
有料職業紹介事業と労働者派遣事業の許可はそれぞれ独立して管理されるため、更新申請も別々になります。ただし同じ公認会計士事務所にまとめて依頼することは可能で、コストを抑えられる場合があります。派遣業のAUPについては派遣業のAUP(合意された手続)もご参照ください。
-
年度決算書で要件を満たしていれば、AUPは不要ですか?
-
はい。直近の年度決算書で基準資産額350万円以上を満たしていれば、AUPは不要です。AUPが必要になるのは、年度決算書では要件を下回るが、その後の月次決算では回復している場合に限られます。
まとめ
有料職業紹介事業のAUPについての要点をまとめます。
- 使えるのは更新申請のみ(新規許可申請には使えない)
- 更新時の財産的基礎は基準資産額350万円以上(新規500万円より低い)。現金預金の要件は更新時不要
- 年度決算書で350万円を下回るが、月次決算では回復している場合に有効
- 監査証明よりも費用が安く・期間が短い
- 独立性のある公認会計士(顧問でない)への依頼が必須
- 更新期限の1〜2ヶ月前には相談を開始する
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